2020年

12月

06日

恩田陸「祝祭と予感」

(幻冬舎)★★★★

蜜蜂と遠雷のスピンオフの短編が6つ載っています。

亜矢・マサル・塵の墓参り、ナサニエルと三枝子の馴れ初め、課題曲「春の修羅」の背景、

マサルとナサニエルの師弟関係、奏とヴィオラの出会い、ホフマンと塵の出会い、の6つです。

昨年「蜜蜂と遠雷」の映画を観ましたので、その映画の出演者の姿が浮かび、

温かくてほっこりした話ばかりです。

さすが恩田さんという感じの文章ですが、もっとボリュームがあると良かったし、

コンクール前の話が4つと後の話が2つで、私はもっと後の話が読みたいと思いました。

ピアノを演奏するシーンやコンテスターの心の葛藤がなく、人間関係が話の中心で、

蜜蜂と遠雷のような音楽小説を期待すると残念に感じるかもしれません。

 

 

2020年

7月

02日

林真理子「女はいつも四十雀」

(光文社)★★★★

林真理子さんが2014年~2019年に、雑誌「STORY」に連載していたエッセイをまとめたもの。

林さんは私より少し年上のため、ファッション・ママ友・夫婦・子育てなど

取り上げる題材が身近で楽しく、

時にはズバッと言い切っていてなるほどと納得させられることが多く、

どんどん読み進めていけます。

いろいろな事をよく知っている友達から話を聞いている感じで、親しみやすいです。

この本で林さんは次のように書いています。

「自分の可能性を広げるために、人は若いうちから努力しなければいけないということを教えてやれる

 母親は素晴らしい。親が楽しく生きていれば子どもが間違った方向には進まない。私は自分の子どもに

 大人になるというのはこんなにいいことなんだということを教えたい。」

こんなことが言える母親の娘でありたかったし、こんなことが言える母親になりたかったけれども、

私の子どもはすでに成人してしまったから今さら遅いかなあと思いつつ、

もしかしたら今からでもまだ間に合うかもしれないと淡い期待を抱いています。

コロナで自粛生活が続き、人生について考えさせられましたが、

ステイホーム中でもピアノを演奏できるということはとても楽しいことです。

最近大人の生徒さん二人と子供の生徒さん二人が、私の教室に入会して下さいましたが、

大人の生徒さんは「自粛生活で、昔習っていたピアノをまたやりたくなりました!」と言っていました。

こんな世の中だからこそ楽器を演奏する喜びをもっと伝えていきたいです。

 

2020年

1月

04日

ミシェル・オバマ「マイ・ストーリー」

(集英社)★★★★★

前アメリカ大統領のファーストレディ、ミシェル・オバマさんの自伝です。

スラム街生まれの黒人の少女がプリンストン大学とハーバード大学法科大学院を卒業後、

弁護士・シカゴ市長執務室・シカゴ大学副学部長・シカゴ大学病院勤務を経て、

ファーストレディになります。

読み終えて感じたのは、想像以上にアメリカにおける人種差別は今でも根強く、

ミシェルはずっと黒人として負けられないという気持ちと

このような人種差別をなくしたいという気持ちを持ち続けて、

努力してきたことがよくわかります。

その中で私が注目したのは、ミシェルがピアノを習った時の話です。

「私がピアノを習おうと思い立ったのは4歳のときだった。叔母のロビーがピアノ教師だったため、

 ロビーにピアノを習った。弾いてみるとピアノは楽しかった。

 練習すればするほどうまくなるというシンプルで心強い相関関係を知った。

 しかししばらくするとテキストの後半の難しい曲を弾きたくなり、

 勝手に後ろの曲を弾くようになり、ロビーと言い合いになった。

 年に一度発表会があった。自分の演奏曲は頭で考える必要もないほど知り尽くしていて、

 あとは手を動かすだけだった。しかし鍵盤の欠けたアップライトピアノでしか練習していなかった

 私の前には完璧なグランドピアノがあり、私はどこに指を置けばいいのかわからなくなった。

 喉が締め付けられて心臓が高鳴りあせっている私に、ロビーは指を中央のドに置き、

 堂々と顔を上げ心を解き放って音楽を奏でるよう教えてくれた。」

このように他の部分もとても引き込まれる文章で書かれていて、

ミシェルがとても聡明で、負けず嫌いで、努力家で、しかも愛にあふれているとわかる本です。

是非若い人達に読んでもらいたいです。

 

2019年

10月

09日

荘村清志さんの記事

昨日から朝日新聞朝刊にギタリスト荘村清志さんのインタビュー記事が載るようになりました。

全15回らしいですが、昨日の1回目の記事がとても良かったのでそれについて書いてみます。

荘村さんは演奏家生活50年、現在71歳。

全国各地を記念ツアーで回っているとのことです。

最近曲に対して発見が多く、80歳を超えてもギターを弾いているかもとおっしゃっていますが、

私が印象深かった言葉は

「ギターは、ひとりぼっちでいることのすばらしさを教えてくれる楽器です。

 ギターという相棒が僕の人生にいただけで、こんなちっぽけなひとりの男の人生がどんなに豊かに、

 どんなに深い彩りを携えることになったのか。

 人生をモノクロームから極彩色にできる音楽の力を知ってほしくて、

 僕は楽器を手にしているのかもしれません。」

この言葉のギターはピアノにも当てはまります。

音楽は聴くだけでももちろん楽しいですが、自ら演奏することによりもっと別の楽しさが広がります。

ピアノ曲は膨大な数の曲があるため、次から次へと弾きたい曲が出てきます。

そのピアノの魅力を生徒の皆さんに伝えていきたいと思います。

 

2019年

8月

18日

池上彰「知らないと恥をかく世界の大問題10」

(角川新書)★★★★★

2009年の第1弾の発売から1年1冊のペースで、今回で10作目。

シリーズ累計186万部を突破する人気シリーズです。

最近世界がどんどん平和から遠ざかっているように感じますが、

世界で起こっている事象の裏側まで、

とても読みやすく分かりやすく書かれてあります。

内容は

1.居座るトランプ「アメリカファースト」主義

2.揺らぐヨーロッパ、EUは夢だったのか

3.サウジの焦り、したたかイラン、イスラム世界のいま

4.習近平の1強政治

5.AIとグローバル化の波に翻弄される私たち

6.憲政史上最長政権へ。安倍政権は日本をどこへ

です。

米中新冷戦について、アメリカは中国が経済発展すれば民主化されると

信じていたのに思い通りにならなかった。

お互いに5Gを制するものが世界を制すと思っている

など最新の世界情勢の裏側までよくわかります。

2018年

12月

23日

エフゲニー・キーシン「エフゲニー・キーシン自伝」

(ヤマハミュージックメディア)★★★★

11月14日にキーシンのピアノリサイタルを聴きに行った時に、

キーシンが自伝を書いているのを知り、

早速読んでみました。

生い立ちから現在まで、国籍をロシア→イギリス→イスラエルに変えた理由、

出会った演奏家や作曲家についてなどさまざまなことが書かれてあります。

私はどうしたらあのような素晴らしい演奏ができるのか、

その秘訣が知りたかったので、そのことに関しては次のように書かれてありました。

「私は楽曲を理解しようとする時、その楽曲の表現を乱さず、よどみや継ぎ目や余分な装飾を消し去り、

 その楽曲の本質を響かせる演奏をする。作曲家がfやpの指示をたくさん書き込んだなら、

 それは曲が単調にならないように演奏する、手の力とさまざまな音の響きとのバランスに注意した方が

 よい、同一のルバートは避けるなどの意味をくみ取ることができる。

 聴く人の感情に最大限に働きかける音楽を生み出すために知性を使う。」

「練習量が多ければ多いほど、ステージでより落ち着いてより自信に満ちた演奏ができる。

 コンサート前の動揺や不安に打ち勝つには、十分に準備すること、

 最初から、それもステージに上がる前から音楽に没頭することが大事である。」

全て納得できることばかりで、できる限り私も見習いたいと思いました。

2018年

10月

28日

佐藤優「十五の夏」

(幻冬舎)★★★★★

元外交官で作家の佐藤優さんが、1975年わずか15歳で、東ヨーロッパやソ連を一人で旅する旅行記。

スイス→チェコスロバキア→ポーランド→ハンガリー→ルーマニア→ソ連の順で巡り、

東ヨーロッパ諸国はほぼフリー旅行。

さまざまなトラブルに会いながら、現地の人々とのふれあいが、

鮮やかに描かれていて、一緒に旅行しているようにわくわくしました。

15歳とは思えない行動力、判断力、決断力、英語力に脱帽です。

佐藤さんは、中学時代の塾の先生の話で社会主義に関心を持つようになったと語っていますが、

若いうちに日本と文化や社会体制の違う国を見ることは、視野を広げるためにとても良い経験だと、

この時代に高1の息子を一人で共産圏に出す両親にも感嘆しました。

私ももっと子供に対していろいろ挑戦させてあげられる親に、なれれば良かったなあと思います。

10代の人に是非読んで貰いたい本です。

 

 

2018年

9月

26日

二宮敦人「最後の秘境 東京藝大」

(新潮社)★★★★

二宮さんの奥様は彫刻専攻の現役藝大生。

さまざまな学科の藝大生へのインタビューが載っていて、実態がよくわかります。

二宮さんは一橋大卒の小説家のため、一般の人から目線で

藝大生を語っているのが、親しみやすくとても面白かったです。

音楽学部の学生さん達は私の通っていた音大と似た感じでしたが、

美術学部の学生さん達は私の想像をはるかに超えた奇人ばかり。

でもその芸術に捧げるパワーはすさまじく、

しかも芸術に対する自由で個性的な発想は皆とても魅力的で、

興味深い人達ばかりなのが、よくわかりました。

またピアノ専攻の三重野さんの言葉に、思わずそうそうと頷いてしまいました。

「同じドでも柔らかいド、情熱的なドなど、上手い人ほど全然違う音を使い分けられるんです。

 打鍵の技術や速度、タッチ、ペダルの踏み方、そういったことで全く音が変わるんですね。

 体格や性格も影響します。自分の個性も活かしつつ、音の幅を広げることで、

 伝えたいものを演奏で伝えられるようになる。そのために練習するんです。」

 

2018年

6月

11日

恩田陸「蜜蜂と遠雷」

(幻冬舎)★★★★★

昨年本屋大賞と直木賞をダブル受賞した作品。

浜松国際ピアノコンクールをモデルにした芳ヶ江国際ピアノコンクールという

ピアノコンクールの予選から本選までを描いた小説です。

今まで「のだめカンタービレ」や「ピアノの森」など

漫画でピアノコンクールを描いた作品はありますが、

文章だけでここまでピアノの音色が想像できる作品に出合ったのは初めて。

心理描写、情景描写、登場人物(コンテスタント、審査員)の設定などが素晴らしく、

曲に向かう姿勢や取り組みなど、とても共感できました。

特に「リストのロ短調ソナタ」を復讐劇の果ての悲劇ととらえ、

音楽に合わせて作りあげたストーリーは流石といった感じ。

そして次の文章にはそうそうよくわかってると感心しました。

「曲を仕上げていく作業は家の掃除に似ている。小さな家なら掃除も楽だし、

 そんなに時間も掛からない。短時間で綺麗になるし、

 ちょっとさらうだけでいつも綺麗にしておける。

 しかし大きなお屋敷は掃除もたいへんだ。

 ずっと美しいままに保つには細心の注意が必要だ。」

多くのピアノを弾かない人にもこの作品が素晴らしいと受け入れられたのは、

とても嬉しいです。

「蜜蜂と遠雷」を読んで、もっと多くの人にピアノを弾いたり聴いたりしてみたいと

思ってもらいたいです。

 

2017年

12月

31日

平野真理子「美宇はみう。」

(健康ジャーナル)★★★★

私は毎週末に趣味で卓球をしていますので、

全日本選手権で優勝し、アジア大会で中国人を破って

とても注目されている平野美宇ちゃんのママの

平野真理子さんが書いた子育て本を読んでみました。

小さい時から自分のことは自分でするようにさせたとのことで、

驚いたのは、強くなりすぎて地元(山梨)に対戦相手がいなくなり、

小学3年生で大阪のミキハウスや東京の東京富士大学に、

修行に行かせたこと。しかも送迎は最寄り駅までで、あとは美宇ちゃん一人。

美宇ちゃんも凄いけど、挑戦させた真理子さんも凄いです。

さらに感心したのが、お小遣いについて。

同等の子に勝ったら500円、格上なら1000円、同等の子に負けたらー300円、

大きな大会で優勝したら5000円や1万円。

妹さんは卓球ではなく勉強を選んだので、

1点1円、90点なら90円、ただし100点なら1000円←ここが凄い

そうすると見直しをして、集中して取り組むようになるとのこと。

報酬でやる気にさせることに否定的な方もいますが、

現在の美宇ちゃんの活躍を見ると、それもいいのではないかと思います。

 

 

2017年

10月

16日

中村紘子「ピアニストだって冒険する」

(新潮社)★★★★

亡くなるひと月前まで書き継がれた中村紘子さんの最後のエッセイ集。

ピアニストの立場から見たコンクールの裏側、

ピアノ界の現状など、表現豊かな文章で書かれていて、

とても興味深かったです。

例えば

・国際ピアノコンクールで、日本人と欧米人との違いは、響きがない、固い、単調

・ピアノ界を盛り上げるには、オーラも実力も備わった国際的に通用する真のスーパースターの力が必要。

 しかし日本にそんな若者のいる気配はない。

・日本の子供には時折びっくりするような素晴らしい才能の子供に出会うが、10代半ば過ぎになると、

 ただの平凡なつまらないピアニストになってしまう。

・バッハのポリフォニーを何層ものミルフィーユのように音色で美しく弾き分け、生徒に弾いてみせる

 レッスンのできる先生が、日本には大変少ない。

・1995年若い音楽家のためのチャイコフスキー国際コンクールで優勝したランランは、

 舞踏のようなド派手な演奏ぶりだったが、目を閉じると音色の艶やかさと並外れた音楽性に

 感動した。

などこれからの日本のピアノ界への提言を書き記して、私達ピアノ教師にもっと頑張ってもらいたいと言っているような気がしました。

2017年

3月

28日

古屋晋一「ピアニストの脳を科学する」

(春秋社)★★★★★

古屋さんは大阪大学の基礎工学部を卒業後、医学博士を取得し、

ハノーファー音楽演劇大学で音楽生理学・音楽家医学研究所研究員をされています。

ピアニストの脳に着目し、ピアニストの様々な弾き方で、

脳や筋肉の活動がどう変化するか、

科学的に裏付けられた理論が、この本の中で展開されています。

・ピアニストの脳はたくさん働かなくても、複雑な指の動きができるように洗練されている。

・ピアニストの手指を動かす神経細胞は、長年の練習により複雑な指の動きを生み出しやすいように

 特殊な変化をとげている。

・脳の神経細胞同士が情報のやりとりをするために必要なケーブルを包む鞘があり、

 11歳までにおこなう練習はすればするほど鞘を発達させる。

・音楽家は音を聴いた時に働く聴覚野の神経細胞の数が多く、働きが優れているので、

 音のさまざまな特徴を正確に処理したり、音のさまざまな表情を聴き分けたりすることができる。

・音感は9歳までにほとんど決まる。脳の柔らかい時期にたくさん良い音楽を聴いたり、

 音楽の教育を受けることが、その後の人生で音楽を深く楽しむための一生の財産となる。

・音楽のレッスンを長期間受けることで、IQが向上する。

・音楽家は左の海馬(記憶をつかさどる場所)の前方部分の大きさが大きく、

 より多くの情報を蓄えることが可能である。

などピアノを弾くことにより、脳が変化することが想像以上に多くびっくり。

またそれらのことが脳科学で全て解明されているということにもびっくり。

興味のある方は是非読んでみて下さい。

2017年

1月

10日

東野圭吾「夢幻花」

(PHP研究所)★★★★★

2013年第26回柴田錬三郎賞を受賞した作品。

娘が「西荻窪が舞台で、主人公の名前が私と一緒なんだよ」

と言うので、驚いて読んでみました。

こんな偶然あるんですね~

黄色い朝顔というこの世に存在しないはずの花をめぐり、

殺人事件が起きます。

謎解き、家族愛などが描かれていてとても面白かったです。

いろいろな事件や出来事がすべて最後に結びつくのはさすが。

黄色い朝顔は本当に江戸時代にあって、毒があるのか気になり、

ネットで調べたところ、

江戸時代に黄色い朝顔があったのは事実で、

日本の朝顔の種を食べると下痢になるだけだが、

朝鮮朝顔は意識障害や幻覚の症状がでることがあるらしく、

華岡青洲が外科手術に朝鮮朝顔から精製したものを

麻酔薬として使ったらしいです。

しかも2014年10月に、基礎生物学研究所が、

黄色い朝顔の栽培に成功しているみたいです。

2016年

10月

24日

東野圭吾「ラプラスの魔女」

(角川書店)★★★★

東野圭吾さんの小説としては、賛否が分かれる作品だと思います。

「容疑者Xの献身」など人情話が好きな人は嫌いかも。

私は読んで面白かったです。

先日北海道の温泉で硫化水素ガス中毒で重体になる事故が起きましたが、

この小説の中では硫化水素ガスによる殺人事件が起き、

実際にあり得ることなのだと、

読んですぐの事故だったのでタイムリーすぎてビックリ。

ガリレオ先生は謎を物理で計算していましたが、

この小説では特殊能力があり、

それをすぐ頭で計算し、予測できる二人の人物が出てきます。

理系の人のとっては、

数学者のラプラスという人名は知っていることらしいのですが、

私は初めて知りました。

東野圭吾さんにしか書けない作品だと思います。

2016年

10月

08日

村田沙耶香「コンビニ人間」

(文藝春秋)★★★★

先日芥川賞を受賞した作品。

主人公の恵子は36歳で、大学卒業後コンビニでバイトし続けて18年。

社会に対して不平不満ばかり言って仕事をしない男、白羽と出会い、

コンビニを辞めるが、やはり自分にはコンビニしかないと気付くという話。

私の娘が恵子のようになってしまったら困るなあと思って読み始めましたが、

読み進めていくうち、恵子はコンビニの売り上げを上げるために、

いろいろ工夫しているし、素晴らしい究極のコンビニ人間なのではないかと

思えてきました。

かなり変わった人ですが、こういう人がコンビニを経営したらうまくいくのでは

ないかなとか。

白羽は上から目線で回りを見下す最低の男ですが、

「現代は縄文時代と同じ。ムラにとって貢献するオスとメス以外は不必要な存在。」

という発言など、未婚で正社員でない人に対する社会の風当たりを、

作者は代弁させているのでしょう。

普通とは何か、幸せな人間の生き方とは何か、

考えさせられる小説です。

 

 

 

2016年

8月

31日

沢木耕太郎「春に散る」

★★★★★

朝日新聞の朝刊に毎日連載されている「春に散る」が、

今日最終回になってしまいました。

元ボクサーの広岡が、アメリカから帰国し、

昔のボクサー仲間三人と一緒に、一人の若者を

世界チャンピオンに育てようという話です。

初めはボクシングの話で、私の好みではないと思ったのですが、

読んでいるうちに毎朝続きが楽しみで仕方なくなりました。

ストーリー展開やボクシングのシーンなどハラハラドキドキ。

そして今日のラスト、素敵でした。

こういう生き方もいいかもと思わせてくれました。

来年1月1日に朝日新聞出版から出版されるそうです。

2016年

8月

29日

大内孝夫「音大卒は武器になる」

(ヤマハミュージックメディア)★★★★

大内さんは慶應大学卒業後、みずほ銀行に勤務され、

現在は武蔵野音大就職課主任兼会計学講師をされています。

私がこの本で注目したのは、

音大生の卒業後の進路と失敗した具体例について書かれた項目です。

音大生の卒業後の進路は

 個人演奏家

 組織・団体の演奏家(オーケストラ団員、自衛隊音楽隊、警察音楽隊、消防音楽隊)

 音楽教員(中学・高校教員、臨時採用教員、私立学校教員、小学校教員、大学教員、幼稚園教諭)

 音楽教室講師

 音楽系企業・団体での事務、アートマネジメント

 そのほかの音楽に関われる職業

 学校職員

 一般企業・公務員

 大学院・留学・専門学校進学

それぞれについて試験など、とても詳しく書かれてあります。

失敗した音大生の具体例は

 なんとなく卒業系

 教員挫折系

 音楽求道者系

 青い鳥症候群系

 ブラック企業就職系

これも音大就職課ならではの詳しさで、実態がとても良くわかります。

私が音大を卒業した頃とは随分変わっているので、

生徒さんが音大に行きたいと言った時に、

とても参考になる良書だと思いました。

音大志望者の方は是非受験する前に、読んでもらいたいです。

 

2016年

8月

13日

三浦しをん「神去なあなあ夜話」

(徳間文庫)★★★★★

映画「ウッジョブ」の原作「神去なあなあ日常」の続編。

横浜出身の青年平野勇気が、三重県の山奥にある神去村で

林業を通じて成長していく物語。

暗いニュース、ドラマ、小説が多い中、

三浦しをんさんの作品は温かい作品が多く、

この「神去なあなあ夜話」もほのぼのとした家族愛が描かれています。

読後、実際に登場人物に会いたくなります。

神去村の起源、恋愛話、過去の事故などいろいろな話が出てきますが、

私はクリスマスを知らずに小学生になった山太くんのために、

みんなでクリスマスパーティーを企画する話が気に入りました。

そして勇気くんの最後の方の言葉に、三浦さんのメッセージが込められていると感じました。

「この村のひとたちは、百年後を見据えて山に木を植えつづけ、

 先祖が植えた木を切りつづけて、生きてきた。

 自分が死んでも、あとを生きるひとが幸せでありますようにと祈って、

 神去村のひとたちは山の手入れをしつづける。

 その信頼こそが、愛ってやつじゃないのかな。」

神去村シリーズの第3弾も書いてもらいたいです。

2016年

5月

03日

宮下奈都「羊と鋼の森」

(文芸春秋)★★★★★

中学校の図書室で仕事をしている友人が、

「羊と鋼の森」がとてもいいと言ったので、

図書館にリクエストして、やっと私の順番が回ってきたところ、

「羊と鋼の森」が今年の本屋大賞に選ばれ、びっくり。

早速読んでみたら、調律師さんのピアノに対する奥深い思いに

とても感動しました。

この小説は、ピアノの調律に魅せられた一人の青年が、

調律師として、人として成長する姿を

綴った作品です。

タイトルの羊はハンマーのフェルト、鋼は弦、

ピアノという森、人生という森に入りこんでいくという意味。

グランドピアノはその構造がとてもよくわかり、

幼稚園児や小学生の生徒さんは、よく覗いています。

このハンマーが弦を打って音が鳴るんだよと説明すると、

とても興味しんしん。

この本がヒットすると、もっとピアノの構造がメジャーになりますね。

この小説の中には、名文がたくさん出てきますが、

いくつか書いてみます。

「天の川で、カササギが橋になってくれるっていう話がありますね。

 ピアノとピアニストをつなぐカササギを、一羽ずつ方々から集めてくるのが

 僕たちの仕事なのかなと思います。」

「音楽は人生を楽しむためのものだ。決して誰かと競うようなものじゃない。

 競ったとしても、勝負はあらかじめ決まっている。楽しんだものの勝ちだ。」

「ピアノのタッチとは、鍵盤を指で叩くと、連動してハンマーが弦を打つ、

 その感触のことなんだよね。ピアニストは鍵盤を鳴らすんじゃない。

 弦を鳴らすんだ。自分の指先がハンマーにつながっていて、

 それが弦を鳴らすのを直に感じながら弾くことができる。」

 

2016年

4月

02日

一色まこと「ピアノの森」

(モーニングKC)★★★★★

18年にわたる長期連載が完結し、

2015年12月に最終巻の26巻が、

出版されました。

森で出会った天才少年、一ノ瀬海と

交通事故によりピアノが弾けなくなったピアニスト、

阿字野壮介の師弟愛が話の中心。

ショパンコンクールのシーンもとても良かったですが、

ラストに海と阿字野が2台ピアノを弾くシーンが、

とても感動的でした。

曲目がラヴェルの「ラヴァルス」で、

3年前の発表会で私が2台ピアノで弾いたのと同じだったので、

さらに感動が倍増。

印象に残るセリフは

「私にもしちゃんとしたピアニッシモが弾けたら、

 ベルリンフィルのソリストだってつとまるだろう。」

「ピアニストには二種類ある。もう一度聴きたいか、そうでないか。」

年を重ねるに連れて、ピアニッシモの音色が上手に出せることが、

いかに大変で大切か、ひしひしと感じています。

 

2016年

2月

29日

「本当に役立つピアノ練習法74」

(リットーミュージック)★★★★

17人のピアノ指導者によって、74のピアノ練習法について

2012年に書かれた本です。

読譜力がアップする方法、暗譜を確実にする方法、

短時間で効率良く練習する方法、柔らかい音を出す方法、

トリルをきれいに聴かせる方法、曲を仕上げる方法など

いろいろな練習方法が書かれています。

とても参考になるものとそれほどでもないものがあり、

読む人のピアノのレヴェルや、悩んでいる点によっても

感じ方が違うのではと思いました。

私は

「頭の中だけで音を鳴らし、途切れたらすぐ楽譜で確認する」という

暗譜力を上げる方法と

「演奏会の本番直前は、余計なものは見ない。深く深呼吸して身体を落ち着かせる。

 吸うよりも吐く方に時間をかけて、ゆっくりと何度も深呼吸する。

 下半身に重心をおとす。」という

演奏会でベストを尽くすための準備方法など

実際に試してみようかなあと思っています。

 

2016年

2月

04日

井上直幸「ピアノ奏法」

(春秋社)★★★★★

かつてNHKテレビの「ピアノのおけいこ」で講師をされていたピアニストの井上直幸さんが、

1998年に出版された本です。

残念ながら井上さんは2003年に63歳で亡くなられましたが・・・

良い演奏とは何か

そのために具体的になにをすればよいか

練習の仕方

暗譜について

ペダルの使い方

など詳しくわかりやすく書かれています。

私が特に参考にしたいと思ったのは

「いつも始めから終わりまで通して練習するのはよくない。いくつかの部分に分けて、おしまいのほうから

 弾き始めて、だんだん前の部分からつなげて弾くようにしていく」

という練習方法です。

早速試みていますが、暗譜も確実になりいい感じです。

 

2015年

9月

17日

夏目漱石「それから」

★★★★★

朝日新聞の朝刊に先週まで、夏目漱石の「それから」が

再掲載され、その表現力の素晴らしさに感動しました。

ストーリーは大学時代に好きだった女性が、親友と結婚し、

数年後再会し、今度はその女性と結婚したいと思う男性の話ですが、

一語一句のチョイスが素晴らしいです。

若い頃夏目漱石さんの作品を読んだ時は、それほど感じなかったのに、

今回は大感動。

現代の作家では、村上春樹さんの表現力が美しいと思っていますが、

それに勝るとも劣らない美しさでした。

こんなに翌日の新聞を待ち遠しく感じたのは初めて。

来週からは夏目漱石の「門」が掲載されるらしいので、

それもとても楽しみです。

2015年

6月

02日

東野圭吾「祈りの幕が下りる時」

(講談社)★★★★★

加賀恭一郎シリーズ10作目。第48回吉川英治文学賞受賞作品。

東野さんの作品は、推理の中に人間ドラマがあるところが素晴らしく、

この作品も親子の切ない愛情が描かれています。

そのほか、加賀刑事の母の失踪理由や

原発作業員の労働環境も描かれていて、

内容の濃い小説です。

「容疑者Xの献身」のように善人が殺人を犯さざるをえない状況が、

読後とても切なく感じました。

 

2015年

2月

17日

澤口俊之「なぜピアノを習うの?」

脳科学者の澤口俊之先生が、テレビでピアノは脳にいいと発言されたのは見ましたが、

ネットの「ママテナ」というサイトに、文章で詳しく載っています。

「人というのは夢を持ち、それをかなえるため努力して成功したいと願うものですが、

 そのためにはIQ(一般的知能)よりもHQ(人間性知能)が重要とされ、

 ダントツにHQが向上するのがピアノです。

 ピアノは両手を並列かつ複雑に使い、楽譜を一時的に記憶しながら

 さらに次に弾く楽譜を先読みします。両手の使い方が異なるという点が、

 他のものにはない高度な行為で、自然にすべての脳機能を高めます。

 ピアノはスキルを伸ばすだけではなく、地頭をつくる万能な習い事です。

 受験勉強は勉強のスキルは身につきますが、能力を伸ばすものではありません。

 人生を生き抜くためには、スキルではなく、自分の頭で考え、

 自分で判断し行動できる能力・地頭が何より必要です。

 そこを伸ばしてあげてください。」


確かにピアノを弾いていると、頭を使っているという感覚はとてもありますが、

このように脳科学者の先生に言い切っていただくと、説得力がありますね。

私の教室に付き添いでいらしている数人のお母様に、この記事をお見せしましたら、

皆さんピアノが上手に弾けたらいいなという動機で習い始めましたが、

こんなにピアノが脳の発達にいいんですねと感心していらっしゃいました。

もっと多くの人に知ってもらいたいです。


2015年

1月

05日

グレン・ベック「クリスマス・セーター」

(宝島社)★★★★★

貧しい母子家庭で育ったエディは、12歳のクリスマスイヴの日、自転車が欲しかったのに、

実際にプレゼントされたのは母の手編みのセーター。それが原因で起きる母の事故死。

その後エディは反抗し、グレるが、祖父や近所の謎の男ラッセルの言葉により、自分を見つめ直し、

立ち直るという話。エディの心理描写がとてもよく書かれていて、感動します。

祖父の言葉はこんな感じです。

「人はだれでも試練に立ち向かっておる。その試練がふつうより大きい者もいる。試練はわしらをきたえ、

 先へと歩きつづける強さを与えてくれる。それはわしら自身のためだけではない。この先の道で出会う

 人々のためにもなる。神さまがわしらにどんな試練を与えようとなさっているのかまだわからん。だが、

 わしらはそれを克服できるはずだ。神さまは決して、必要な力と知恵を与えずにわしらを放りだしたり

 はしない。」

困難にであった時、勇気づけてくれる本です。    


2014年

7月

22日

ダン・ブラウン「インフェルノ」

(角川書店)★★★★★

「ダヴィンチコード」で有名なダンブラウンの最新作。

前作の「ロストシンボル」から4年経ったので、私にとっては待ちに待ったという感じ。

毎回、美術品や文学を背景に、謎解きとスリルと冒険で、とてもおもしろいですが、

この作品も期待を裏切らないです。

今回はイタリアのフィレンツェが舞台。ダンテの「神曲」をもとに、

ボッティチェルリの絵画「地獄の見取り図」やダンテのデスマスクに謎がこめられ、

世界人口増加や、遺伝子操作など社会問題がとりあげられています。

実在するイタリアのヴェッキオ宮殿、サンマルコ大聖堂やトルコのアヤソフィア博物館などが

舞台で、文章では想像に限界があるので、是非行ってみたくなります。

2015年にトム・ハンクスの主演で映画化が決まっているらしいので、

とても楽しみです。

2014年

6月

23日

小山宙哉「宇宙兄弟」

(講談社)★★★★★

宇宙飛行士をめざす兄弟の話。

テレビアニメや映画にもなった人気漫画です。

現在も連載中ですが、テレビアニメが終わってしまったのが、とても残念。

いろいろな困難にもめげず、夢にむかって頑張る主人公の姿が感動的。

子供に読ませたい漫画です。

セリフも感動的で、たとえば次のような言葉です。

「人の人生にはいくつもの”夢のドア”がある。

 人は大きな夢を持った時、目の前に現れたバカでかいドアに畏縮して、

 向こう側へ行くことを諦めちまう。「開けられるわけがない」ってな。

 だがビビることはないんだよ。本当ははじめからそんなバカでかいドアなんてものはない。

 小さなドアがいっぱいあるだけだ。そしてそのドアを開けるたび、

 君らの夢がひとつずつ叶っていくのがわかるはずだ。

 君らにはそのためにやるべきことがある。手探りでも何でもいい。

 意地でも次のドアに手をのばし続けることだ。」

 

2014年

4月

08日

池井戸潤「ロスジェネの逆襲」

(ダイヤモンド社)★★★★★

昨年大ヒットしたテレビドラマ「半沢直樹」の続編です。

2004年、銀行の系列子会社東京セントラル証券に出向させられた半沢。

そこで企業買収を阻止することになるが、半沢は初めあまり行動を起こさず、

ドラマのキャラクターとは違う感じでしたが、

後半は悪事を行っている上司をやっつけて、

さすが半沢直樹とスカッとさせられます。

半沢直樹の「仕事は客のため、世の中のためにするもんだ。

バブルは自分たちのためだけに、仕事をした連中が作り上げたもの。

顧客不在のマネーゲームが世の中を腐らせた。

お前らがまずやるべきことは、ひたすら原則に立ち返り、

それを忘れないようにすることだと思う。」

という言葉が印象的。

2013年

12月

17日

三浦しをん「風が強く吹いている」

(新潮文庫)★★★★★

主人公の走とハイジさん以外はマラソン未経験の10人が、箱根駅伝をめざす話。

三浦さんの作品はいつも期待を裏切られず、

この作品もとても感動させられます。

三浦さんは多分マラソン未経験で、取材だけでここまで書けるなんて、

本当に素晴らしいです。

後半の箱根駅伝を走っている時の、

メンバーの心情を語っている文章が特に感動的。

結果は読んでのお楽しみ。

来年の箱根駅伝は、いつも以上に楽しめそうです。

 

2013年

9月

04日

三浦しをん「まほろ駅前多田便利軒」「まほろ駅前番外地」

(文春文庫)★★★★★

直木賞を受賞し、映画化、テレビドラマ化もされた作品です。

東京のまほろで便利屋を営む多田の所に、高校の同級生だった行天が転がりこんで、

まきおこす人情話。

常識人で情に熱い多田と、一見変人でいい加減だが、時々的確な発言と行動をする行天は

ナイスコンビ。便利屋なので、いろいろな仕事の依頼人が登場し、

三浦しをんさんの筆にかかると、それらの人物が皆とても魅力的になります。

そして他人との出会い、つながりって素敵だなあと思わせてくれます。

この本は、このブログを読んで、ピアノの生徒さんのお母様がいい本だからと

貸して下さいました。

私もこのホームページを作成したことにより、多くの人とのつながりが広がり、

嬉しく思っています(*^_^*)

2013年

5月

02日

三浦しをん「舟を編む」

(光文社)★★★★★

昨年の本屋大賞を受賞し、今度映画化された作品です。

辞書の編纂に生涯を捧げる人達の話で、辞書を作るのに、こんなに一つの言葉について

いろいろ吟味されていたとは、知りませんでした。

私は今まで、意味のわからない言葉を調べる時や、どんな漢字か知りたい時にしか、

辞書を使っていませんでしたが、辞書を最初から最後まで、普通の本のように

読破したくなりました。

三浦しをんさんは実に文章表現が上手く、しかも登場人物が

すべて個性的で、とても魅力的。

三浦さんの作品は「格闘する者に○」以来2冊目。

「格闘する者に○」も人を引き付ける文章を書く人だと思いましたが、

年月が過ぎ、「舟を編む」ではもっとグレードアップした文章になっていると

感じました。他の作品も読んでみたくなりました。

 

2013年

1月

11日

中山七里「贖罪の奏鳴曲(ソナタ)」

(講談社)★★★★★

中山七里さんの最新作「贖罪の奏鳴曲」を読みました。

以前にこのブログで「さよならドビュッシー」について書きましたが、

今度「さよならドビュッシー」が映画化されるそうです。人気がでてきたのですね。

「贖罪の奏鳴曲」でもピアノ演奏が見事な描写で、音楽表現が畳みかけるように書かれています。今回はベートーヴェンピアノソナタ「熱情」。

文章の表現力も、内容もより素晴らしくなっていて、中山さんの作品では一番だと思います。

主人公は過去に殺人を犯した弁護士。ただのミステリーではなく、贖罪がテーマになっていて、

医療少年院の稲見教官の言葉が、中山さんのメッセージだと思います。

「悔いたところで過去は修復できない。自分以外の弱い者のために闘え。

 奈落から手を伸ばしている者を救い上げろ。

 それを繰り返してやっとお前は罪を償ったことになるんだ。」

他にも法廷シーンやラストのどんでん返しなど、読み応え十分で楽しめます。

 

 

2012年

8月

30日

加藤シゲアキ「ピンクとグレー」

(角川書店)★★★

ジャニーズのアイドルグループ「NEWS」の加藤シゲアキ君が書いた小説です。

ごっちと僕(りばちゃん)の友情がテーマになっています。

ごっちと僕は渋谷で一緒にスカウトされますが、ごっちはスターになり、

ぼくはいつまでも売れないタレント。そこで悲劇が生まれます。

アイドルとは思えない文章表現力で、感動したと言われていて、

私も確かに表現力は素晴らしく、才能があると思いますが、

加藤君から受ける印象とは違って、話が暗く重かったです。

このくらいで自殺はしないだろうし、ラストも何故て感じ。

ラストが明るく終わっていたら、★★★★★にしたのになあ~

次回作に期待したいです。

2012年

8月

29日

渡邉正裕「10年後に食える仕事食えない仕事」

(東洋経済新報社)★★★★

10年後の日本の状況をさまざまな角度から分析し、予測した本です。

2011年8月、25歳未満の失業率は、スペイン47%、ギリシャ43%、イタリア28%、

フランス24%、イギリス21%、アメリカ18%(現在はもっと悪化)ですが、日本は8%。

しかしグローバル化が進む一方で何も手を打たなければ、7割の人は職を失って外国人に

とって代わられるか、今の最低賃金よりもさらに低い賃金で働かざるをえなくなるだろう。

では残りの3割に入るためには、どのような職業についたらいいか。

渡邉さんは大きく次の3つに分けています。

1.世界中の人がライバルになる「無国籍ジャングル」(国際弁護士、ディーラー、建築家他)

2.日本人らしさで生き抜く「ジャパンプレミアム」(住宅営業、教員、公務員、人材紹介他)

3.日本市場のプロとして「グローカル」(政治家、メーカー開発者、医師、記者、通訳他)

説得力のある理論で、そうなるかもなあと思える本です。

2012年

7月

09日

村上春樹「小澤征爾さんと音楽について話をする」

題名通り、村上春樹さんが指揮者の小澤征爾さんと、いろいろなクラシック音楽について

語り合ったものです。村上さんがクラシックに詳しいので、小澤さんも深い所まで話していて

楽しめます。

その中で、村上さんが文章と音楽の関係について興味深いこと言っているので、書いてみます。

「文章を書くのにいちばん何が大事かっていうと、リズムですよね。文章にリズムがないと、

 誰も読まないんです。言葉の組み合わせ、センテンスの組み合わせ、パラグラフの組み合わ

 せ、硬軟・軽重の組み合わせ、均衡と不均衡の組み合わせ、句読点の組み合わせ、トーンの

 組み合わせによってリズムがでてきます。

 ポリリズムと言っていいかもしれない。音楽と同じです。僕は文章を書きながら、それを

 自動的に頭の中で音として起こしています。」

1Q84など村上さんが、何て素敵な魅力的な文章を書く人なのだろうとずっと思っていました。

その理由がこの言葉でわかったような気がします。

ますます村上さんのファンになってしまいました(^.^)/~~~

新潮社★★★★★(書き忘れました)

2012年

5月

27日

三浦しをん「格闘する者に○(まる)」

(草思社)★★★★

「舟を編む」で今年本屋大賞を受賞した三浦しをんさんの、初めての小説です。

女子大生の就活の話。

三浦しをんさん自身の経験に基づいた話ではないかと思われます。

とても表現力のある方で、面接試験の場面は実に上手です。

就活の参考になりますが、

小説としても、とても楽しめます(*^_^*)

2012年

4月

21日

ランラン「奇跡のピアニスト郎朗自伝」

(WAVE出版)★★★★★                                       

                                                私の大好きなピアニストの一人であるランランの自伝です。

子供の時の話が壮絶で、中国で一流になるにはいかに大変か驚きました。

父親は二胡の奏者で警察官、母親は電話交換手なのですが、父親は教育パパを通り越して、

スパルタパパ。

自宅は北京から電車で12時間のカンヨウにありましたが、9歳でランランを北京の

中央音楽学院に入れるため、父親は仕事をやめ、ランランとともに北京に行き、

母親はお金を稼ぐためカンヨウに残ります。暖房もないボロアパートで、近所から苦情が来る中

練習を続けたランラン。しかし先生に見込みがないと破門され、ショックのあまり父親は

ランランを殺そうとします。あとで破門した理由は、ランランの才能に嫉妬した地元の人が、

その先生に父親が犯罪者とつながりがあると言ったせいだとわかりましたが・・・

その後別の先生に師事し、3000人中12人しか合格しない中央音楽学院に、トップで合格

します。そこまでの話が印象的でした!!!

2012年

3月

18日

グリゴーリー・ガルドン「エミール・ギレリス」

(音楽之友社)★★★★

これはロシアの偉大なピアニスト、エミール・ギレリスについて書かれた書物で、

伝記ではなく、いろいろな人の言葉など事実を書き記したものです。

ギレリスは1916年に生まれ、1985年に亡くなっていますが、この本は2007年に

出版され、日本語訳は2011年に出版された最近のものです。

この本によると、第2次世界大戦の中、ロシアの名ピアニストとして生きることがいかに

大変なことだったかとてもよくわかります。

戦争中は戦地へ慰問演奏に行かされ、ギレリスのピアノの師であるネイガウスが無実の罪のため

捕えられた時は、ギレリスがスターリンに直接命がけで掛け合い助けたり、

戦後は、海外で演奏する時、亡命しないようにと常に監視がつけられたりと、さまざまな

エピソードが書かれています。

ギレリスの演奏はCDでしか聴いたことがありませんが、そのような生涯を送ったことを知ると、

いっそう感慨深い響きに聴こえてきます。

2012年

2月

07日

朝倉慶「2012年、日本経済は大崩壊する」

(幻冬舎)★★★★

日本経済のことはある程度は知っているつもりでいましたが、この本には目から鱗が落ちるような

事柄がたくさん書いてあります。その主な要点を書いてみると、

 ・ゴールドマンサックス、JPモルガンチェース、BOAはコンピュータによる1000分の1秒

  の高速取引を行い、為替、株、債券などの市場で莫大な収益を得ている。

 ・世界の人口がどんどん増えているため、穀物生産が追い付かず、資源と食料の価格が高騰し、

  世界でインフレが起こる。

 ・日本はBIS規制とソルベンシーマージン規制により、銀行と生保は国債漬けになっているが、

  そろそろ限界に近付いているため、国債が暴落しハイパーインフレが起こる。

 ・日本人が資産を守るために預金ではなく、金、プラチナ、株(商社・非鉄金属・食品)に

  投資するのがよい。

今年、日本が崩壊するとは信じられませんが、今年ではなくても近い将来崩壊する可能性は高い

と思われます。その時に備える準備をした方がよいと思いました。

2012年

2月

04日

角田光代「ツリーハウス」

(文芸春秋)★★★★★

親子孫、3代の家族の話です。

第2次世界大戦中、新天地を求めて満州に渡った祖父と祖母が出会い、結婚し、戦後命からがら

日本にもどってきて、新宿で中華料理店を開きます。そこで高度経済成長期を経て、2010年

までの3代の家族の様子が物語になっています。

見た目はどこにでもいるような家族ですが、一人一人は人生にとても悩んでいて、退職してニート

になったり、カルト宗教団体に入ったり、自殺してしまったりします。角田さんの文章力は

素晴らしく、469ページもありましたが、すぐ読めてしまいました。

祖父の死をきっかけに、祖母と息子と孫が満州に旅行に行きますが、祖母は旅行後「私は逃げて

逃げて生き延びた。逃げることしか時代に抗う方法を知らなかったんだよ。だからあんたたちに

逃げること以外教えられなかった。でも今はそんな時代じゃない。」その言葉を聞き、孫の良嗣は

住宅メーカーに就職し、とりあえずここで5年は働く。そこから逃げ出せば、違和感は違和感の

まま残るだけだと悟るところが印象的でした。これが角田さんの言いたかった読者へのメッセージ

ではないかと思いました。読み応えのある小説です。

2012年

1月

25日

村上龍「カンブリア宮殿 就職ガイド」

(日本経済新聞出版社)★★★★★

テレビ東京でやっているカンブリア宮殿で、村上龍さんが会社経営者と対談していますが、それを

1冊の本にまとめたものです。さすが人生の成功者は言うことが素晴らしいと感じさせる名言揃い

の本です。いくつか書いてみます。

「人間の究極の幸せは4つです。1つ目は愛されること。2つ目がほめられること。3つ目が

 人の役に立つこと。4つ目が人に必要とされることです。幸せの中の3つは働いてこそ

 得られることです。」(日本理化学工業会長 大山泰弘)

「失敗しなければ覚えないこともあります。同じ失敗を二度、三度と繰り返すのはいけませんが、

 失敗したことを教訓、糧にしてステップアップしていくのは大いにあります。」

 (日清食品ホールディングス社長兼CEO 安藤宏基)

「ほとんどのことはうまくいかないんだと思っています。うまくいったらラッキーなんだと思う

 ようにしたらいいと思う。人生すなわち努力ですよ。徹底的に努力しないと天も味方して

 くれないと思います。」(SBIホールディングスCEO 北尾吉孝)

2012年

1月

19日

弘兼憲史「専務島耕作」1~5

(講談社)★★★★★

初芝電産の専務になった島耕作は、韓国の巨大企業ソムサンが日本の五洋電機に敵対的M&Aを

仕掛けてきたのを阻止しようとして、TOB合戦を試みます。

最終的には初芝電産がソムサンに勝ちますが、そこまでの戦いがハラハラドキドキして、

漫画なのに思わず島耕作を応援してしまいました。

以前中国が舞台になった島耕作のドラマを見ましたが、この専務島耕作もドラマ化して

もらいたいです。

2012年

1月

11日

野口悠紀雄「実力大競争時代の超勉強法」

(幻冬舎)★★★★

野口さんは現在の日本の不況と就活について次のように言っています。

日本企業が低迷しているのは、日本における人材の劣化が基本原因である。

新しい産業の確立が日本経済再活性化のために不可欠。しかし人材がいないことが障害に

なっている。そのため企業が外国人に目を向け始めた。なぜなら、新世代の中国人には

目を見張るほど優秀な人材がいるからだ。

このような状況で、日本の若者はどうしたらいいのか。

 1.これからの時代で必要とされるのは意思伝達力、問題の発見・解決力である。

 2.英語と数学はどんな仕事にも必要。英語はどれだけ話せるかではなく、

   英語を使って何をするかが重要である。

私にもこれから就職する子供がいるので、これからの日本がどうなっていくのか、

きちんと就職できるのか不安なことだらけです。今年は明るいニュースがあるといいですね。

2012年

1月

06日

弘兼憲史「常務島耕作」

(講談社)★★★★★

島耕作の課長編から読み、部長編、取締役編、常務編まで読みました。

弘兼さんが「これは日本経済の最前線を駆け抜けた男の一代記だ」と言っているように、

女の私ではわからないビジネスマンの生き方がよくわかります。

島耕作はフランス、アメリカ、中国から常務編ではインドに赴任します。それぞれの国の

経済状況がとてもよくわかります。

例えばインドは乾季と雨季に二分され、6月から9月の雨季には半分以上の人口を占める農民が

喜び、財布のヒモがゆるみ、ものがたくさん売れて、経済が活性化するということがわかったりします。

漫画なので、かたい内容も読みやすいです。

島耕作はどんな困難にも立ち向かい、行動力があり、かっこいいです!!!

2012年

1月

01日

誉田哲也「感染遊戯」

★★★★

今度竹内結子さんの主演で、連続ドラマになる「ストロベリーナイト」の原作者誉田哲也さんの

作品です。「ストロベリーナイト」などの姫川玲子シリーズは、かなりグロテスクな場面も

ありますが、とてもおもしろいです。

この「感染遊戯」も姫川玲子が主役ではないですが、バラバラに思えた官僚の殺人事件が、

最後は一つに繋がってさすがうまくできていると感心しました。

この話の中で、外務省の人が許せないという場面がでてきます。これは事実なのだろうかという

疑問が残りました。

2011年

12月

28日

澤口俊之「わがままな脳」

(筑摩書房)★★★

  ホンマでっかTVなどで活躍している澤口さんの本です。

  TVと違って、かなり真面目に脳のメカニズムに関していろいろなことが書かれています。

  その中で私が興味をもったのは言語の習得についてです。「言語的知性、絵画的知性、空間的知性

  論理数学的知性、音楽的知性、身体運動的知性、感情的知性などすべての能力には臨界期(その機  

  能の獲得・発達にとって最も重要で、その期間での影響が生涯にわたって続いてしまう期間)があ

  り、どれもが生後から8~12歳までに入ると考えてよい。

  外国語の習得は8歳までが臨界期として重要な時期である。それまでにネイティブな英語をきちん

  と経験・学習しておけば、英語の能力はかなりしっかりと確立する。逆に言えば、それ以降にいく

  ら英語を学んでも、たいていの場合ネイティブと同等のレベルになることはかなり困難だ。」

  もっと早くにこの本を読んでいれば、私も子供にもっと熱心に語学をやらせたのにと思います。

  大人になっても伸び得る能力はスポーツ、記憶、多くの情報・経験を踏まえて未来に向かって適切

  な答えを出す知性だそうです。

2011年

12月

27日

石川勝美「石川家の子育て」

(PHP研究所)★★★★

   プロゴルファー石川遼君のお父さんが書いたエッセイです。

   遼君のゴルフを始めたきっかけが凄いです。

   遼君が4歳のとき、お父さんが近所の打ちっぱなしのゴルフ練習場に一緒に連れて行き、遼君

   が「やりたい」と言うので打たせたところ、うまく当たりました。でも初めだけで、そのあと  

   は当たりません。遼君が「このクラブは僕には重すぎる」と言いだし、お父さんは家に帰って

   そのクラブをノコギリで切り、約1時間後またゴルフ練習場に行くのです。

   お父さんは子供の興味はすぐに変わってしまうので、「やりたい」と言った瞬間は大事にして  

   すぐに応えてあげることが大事だと言っています。

   私はこのお父さんの行動力が、普通のお父さんとは違うととても感心しました。

   他にお父さんの言葉で良いと思ったのは以下の言葉です。

   ・失敗は勉強するための絶好のチャンスです。失敗にめぐり合えた人は幸せです。すべてを

    経験として受け止めることによって失敗は生きてくる。逆境こそチャンスを教えるべきです。  

2011年

12月

27日

東野圭吾「カッコウの卵は誰のもの」「プラチナデータ」

「カッコウの卵は誰のもの」★★★★

「プラチナデータ」(幻冬舎)★★★

    どちらも科学的に進んだ現代なら、このような殺人事件が起こるかも・・・といった内容の

    話です。

    「カッコウの卵は誰のもの」は、スポーツに優れた遺伝子をもつ主人公をめぐって殺人事件

    がおき、「プラチナデータ」は、DNA捜査システムをめぐって殺人事件がおきます。

    「プラチナデータ」は主人公が二重人格で、どちらも最後はどんでん返しがあるのですが、

    おもしろいのは「カッコウの卵は誰のもの」です。「カッコウの卵は誰のもの」は親子の愛情

    に感動する場面もあり、オススメです。

2011年

12月

25日

清宮克幸さんの言葉

プレジデントファミリー2012年1月号、ヤマハ発動機ラグビー部監督 清宮克幸さんの言葉です。

「私には小6と小2の男の子がいますが、とにかくいろいろなことにチャレンジさせ、いろいろな経験を積ませたいと思って育ててきました。

長男にはこれまでにラグビー、水泳、陸上、ピアノ、習字を習わせました。スポーツにしてもお稽古事にしても、必ず勝敗が決まるもの、結果を感じることができるものだけを選んでやらせてきました。

勝敗が決まるという意味ではスポーツが一番わかりやすいのですが、長男のピアノ発表会を見に行ったとき、これはこれでなかなかいいものだと感じました。

私は、およそピアノなどというものとは無縁の人生を送ってきた人間ですが、練習の成果を人前で発表するためにステージに立つのは、一種の勝負であることがよくわかったからです。」

このように感じてるお父様がいるとは意外でしたが、ピアノ発表会の意義を認めて下さり、うれしかったです。私はピアノは勝負ではなく、人生を豊かにしてくれる楽しみの一つだと思っています。

最近ピアノをやっていて本当によかったと思います。ピアノはある程度上手くなるのに時間がかかりますので、その前にやめてしまう生徒さんが多いですが、頑張って続けてほしいと思います。

2011年

12月

24日

中山七里「さよならドビュッシー」「おやすみラフマニノフ」

「さよならドビュッシー」(宝島社)★★★★★

「おやすみラフマニノフ」(宝島社)★★★★

「さよならドビュッシー」は第8回「このミステリーがすごい」大賞を受賞した作品で、「さよならドビュッシー」は音楽高校、「おはようラフマニノフ」は音楽大学が舞台になっています。

どちらも殺人事件が起きるミステリーで、ピアノの演奏、レッスン、コンクールの場面がたくさん出てきますが、その描写がとても上手いのです。中山七里さんは花園大学文学部国文科卒業となっていますが、かなり本格的にピアノを習ったことがあるのではないかと思われるほど素晴らしいです。

「さよならドビュッシー」の方がジーンとくるおじいさんの言葉があったりして、ストーリー的におもしろいです。

続きを読む

What's New

ここには全ページに

共通の項目が表示されます。

 

<利用例>

What's New!

 

<利用例>

お問合わせはこちらから